車上生活者が小屋暮らし、Bライフを目指すブログ

車上生活も3年目。車上生活から小屋暮らしを目指します。

車中泊、車上生活の始まり、僕らの終焉。①

思えば幼い頃から「狭い場所」というより「自分だけの完結された空間」に執着があったように思える。家族3人で住んでいた実家である狭いアパートでは独りになるのは難しいからかもしれない。

 

聞くところによれば、幼年期の僕は狭い部屋の中で、さらに狭いダンボール製の小屋を作り「ぼくのいえだ!」と宣言したそうだ。あきれたのだろう。母親は僕が留守のあいだに「ぼくのいえ」を撤去した。それを知った僕は大泣きをした記憶がある。

 

小学校高学年にはドラえもんのように「押入れ」を自分の部屋とした。電気スタンドとラジカセを持ち込むと立派な部屋になった気がした。

上段で寝ていた僕は夜中に転がり落ちた。頭を床に強打して少量出血し、大きなコブを作ったのであった。

 

それでも懲りる事はなかった。

 

21歳の夏、初めて買った車は30万円のセダン「日産サニー」だった。

 

レンタカー落ちで走行距離は5万キロ。どこか色あせた、くすんだ白い色をしていた。

営業車だったらしくパワステ、クーラー程度の最低限の装備しかなく、シート地はビニール。ボディーには「株式会社○○○○」と社名があり、流石にそのままでは恥ずかしいので引き取り前に塗装して消してもらうことにした。

 

そんな自慢できるような車ではなかったが僕は嬉しかった。

それまで幾度も思い描き計画していた事「車中泊」ができるからだ。早速、車を車中泊仕様にするべく意気揚々と作業に取り掛かった。

後部シートを外すとトランクルームと一体の空間ができた。助手席を倒し、そこにベニヤ板を乗せて寝床を作った。トランクルームに足を入れて寝ると脚を伸ばせる十分な長さが確保できた。窓ガラスには型取りした段ボールをはめ込み、目隠しとした。

こうしてできたプライベートな空間を手に入れた僕は満足し、ニヤニヤとしていた。当時の僕は「家」を手に入れた気でいたのだ。しかもどこへでも移動できる素晴らしい家だ。

何の根拠もないが「家」を手に入れたことにより、この先わくわくする冒険と出会いがあると確信していたのである。くすんだ白い色のボディーは汚れやすく、コンパウンドでせっせと磨きながら旅の妄想をふくらませた。

それから会社の休みがあると車に寝袋と食料を積み込み車中泊旅行をした。だが、思い描いてた冒険や出会いはそこになかった。

金は無いが時間だけはあるので知らない海や山をグルグルと巡ったでけであり、誰かいても小心な僕から話しかける事は滅多にはなかった。自身が何か変わることもなく、独り淋しい車中泊旅行で、わけもわからない孤独感の不安にため息を深く吐き出した。

それでもいつかは嫌な仕事と、人間関係から解放されてずっと車中泊旅行ができればいいなと妄想していた。自由な空気と開放感は確かに感じられたからだ。

 

そのころ、車中泊とは関係ないところで初めての彼女ができた。僕はこの「家」で初めてキスをした。

 

数年後、10万キロを走行した「家」はクーラーが突然故障した。初夏ではあったがクーラーがなくては暑くてどうしようもない。修理の見積もりをすると20万円弱であり、車検も近い。金もない。

相当悩んだ末、車を手放す事とした。寂しかった。

車としての価値はなく、鉄くずとして無料で業者に引き取られる事となった。無意味とは分かっていたが、引き渡す前に最後に洗車をし、いつものようにコンパウンドでボディーを磨いた。この頃には磨きすぎたせいか、増々くすんだ白い色になり、よく見ると、うっすらとボディーには株式会社○○○○と社名が浮き出ている気がした。嫌な予感がした。

 

その直後、彼女も僕のもとから去っていった。「変わらないあなたが嫌になった」それが理由であった。

 

彼女を失うという初めての経験をした僕はますます孤独となり精神的に病んでいた。半ば自暴自棄となり仕事も辞めてしまう。

それからわずかな貯金と失業保険を食いつぶしながらアパートに引きこもった。彼女との思いでがいっぱいのこのアパートで独り暮らすのは寂しかった。そんな最中、財布を落とした。「捨てたサニーの呪い」を確信したのであった。

「捨てたサニーの呪い」から逃れるためにはアパートを引き払い、新たに車を手に入れて車中泊の旅に出なければならないと考えるようになった。

 

あれからさらに中古車、現在の軽貨物のエブリイと車を乗り換えた。そうして僕は今も車中泊、車上生活ををしている。

 

車上生活1年目は妻と一緒であった。そして今は独りになった。「捨てたサニーの呪い」が現在もつづいているのであろうか。いや、俺の性分のせいなのだろう。

 

もはやこの「家」からは逃げることはできない。僕に「帰る場所」はない。車上生活者なのだから。